「NG記者リスト」のジャニーズ事務所会見。根本から欠けていた誠実さ
所属タレントなどに対しておぞましい性加害を繰り返したジャニー喜多川氏(2019年死去)のスキャンダルをめぐり、ジャニーズ事務所が2023年10月2日に都内で開いた会見で、質疑応答で指名しない記者の「NGリスト」があったとNHKが4日、報じた。あろうことか、このリストを基に質問者を選別していた疑いが浮上している。Pen&Co.もスポーツジャーナリズムのほか、スポーツ団体などのPR事業を手掛ける立場だ。PRの定石からしてもありえない。
「1社1問」指名は24人/294人。「NG記者」、NHKがスクープ
まず、問題の記者会見の前提を整理する。
10月2日の会見は、前回の9月7日に続く2度目の記者会見という位置づけだった。9月7日の記者会見では、事務所として「性加害はあった」と初めて認め、被害者への謝罪、補償を約束し、経営体制を刷新し、出直しを図るために設けられた。今回の記者会見では、さあここからどう立て直すのか、公明正大に、その具体的説明が求められていた。
入場した報道陣は294人、時間内に指名された記者は24人だったという。会見は約2時間で終了した。質疑応答は「1社1問」とされ、司会を務めた元NHKアナウンサーの松本和也氏が指名する形で進められた。その記者会見の会場で、NHKは関係者が「氏名NG記者」と書かれ、6人ほどの顔写真が掲載されたリストを持参しているシーンをカメラでとらえ、スクープした。
「氏名NG」は「指名NG」の誤表記の可能性があると見られる。それはそれで恥ずかしい。最前列で手を挙げ続けた記者や質疑応答の時間に終始手を挙げ続けても指名されなかった記者らが不満を募らせ「司会、ちゃんと回せよ」などと声を荒らげ、騒然となる一幕もあった。それはテレビを通じても確認できた。
危機コンサルの外資PR会社が「独断でやった」
報道によると、ジャニーズ事務所はこの会見を取り仕切った外資系PR会社が独断でやったことだという主旨の主張をしている。
ジャニーズ側は「誰か特定の人を当てないでほしいなどという失礼なお願いはしておりません」とコメント。そのうえで、会見を取り仕切った外資系のPR会社と事前に打ち合わせをした際、PR会社が示した出席媒体リストの中に「NG」が存在したため、井ノ原副社長が「絶対当てないとだめですよ」と諭したという。それに対して、PR会社担当者は「前半ではなく後半にあてます」と答えたというのだ。会見は2時間で打ち切られ、ジャニーズ側の意見は結果的に聞き入れられなかったと主張している。
記者会見を取り仕切ったPR会社は「FTIコンサルティング」と報道されている。FTIコンサルティングとはクライシス(危機)コンサル、PRも手掛ける米系のグローバルビジネスアドバイザリーファームだ。
ジャニーズ事務所はPR会社に謝罪するよう求めたが、「外資なので本国の許可が必要で調整に時間がかかると言われました」とコメントしている。
ブランド・インテグリティ=誠実さ欠落
まず大前提として、この手の記者会見を催す際、企業コミュニケーションに求められる重要なキーワードがある。それは「Brand Integrity(ブランド・インテグリティ)」だ。Integrityは「誠実、正直」という意味で、自社にとって都合の悪いことが起こったときに黙り込んでしまったり、ごまかすような対応をとってはならない。
ジャニーズの記者会見では根本的にこの思想が欠落していた、というのが私の考えだ。
「リスト知らなかった」で、ガバナンス不全も露呈
世界に衝撃を与えた前代未聞の性加害問題を認めた企業の再生、出直しの記者会見。公明正大を是とする誠実さと、倫理観に徹したコミュニケーションを常に意識しておかなければならなかった。「NGリスト」の存在は知らなかったというジャニーズの弁明は苦しいが、仮に知らなかったとしても、委託したPR会社に記者会見の根幹に関わる部分を丸投げし、統治できなかった「ガバナンス不全」は露呈した。
これはこの会見に限ったことではないが、「1社1問」と質疑応答を制限し、時間を区切ったことも今回の記者会見の主旨、立場を鑑みると不誠実に映る。ジャニーズが誠心誠意、誠実に出直すならば、説明責任を果たすため、また全国のファンや国際社会の理解を得るため、海外の記者を含めた報道陣の追加質問を受け付け、手が挙がらなくなるまで、誠実に粘り強く回答すべきではなかったか。少なくともその「姿勢」は見せるべきだった。また丁々発止の記者会見を取り仕切る委託先に「本国の了解に時間がかかる」というような外資のPR会社を選択する時点で、経営判断が甘い。
負にも真摯に向き合い、誠実さ示せ
SNS全盛時代、批判や悪評の書き込みは、もはや一元的には隠すことはできず、瞬く間に拡散する。まして、この記者会見はテレビのワイドショーで生中継されていた。企業から発信する情報が、「NGリスト」で記者を選別することでコントロールされていたとしたら、社会からは不誠実と映るのは当然だ。しかもクライシス(危機)コンサルティングが専門のPR会社がやることとしては見当違いも甚だしい。結果、この記者会見は火に油を注ぎ、「恥の上塗り」となってしまった。
企業にとっては負の情報であってもあえて取り上げ、真摯に向き合うことで初めて「誠実さ(インテグリティ)」を示すことができる。そうすることで、企業(=ブランド)に最も重要な「信頼」を勝ち得ることができるのだ。ブランド・インテグリティはそんな思想に基づく。ジャニーズ改め「SMILE-UP(スマイルアップ)」とは、笑えない船出だ。