【キャリア支援】体育会系学生の就活とエントリーシート「必勝メソッド」初公開
エピソードのない「協調性あります」は、悪例の典型
多くの学生が陥りがちな、いくつかのNGパターンがあります。典型的な悪例を挙げます。
「私は〇〇大学××サークルで副部長を務めました。ムードメーカー的存在でリーダーシップもあります。特に人を笑わせたり、楽しませたり、和ませることには自信があり、協調性もあります」
例えばこんな表現です。そこにはたいてい具体的なエピソードも実績も何も書かれていません。仮に人を笑わせることが得意なお笑い芸人は「自分は人を笑わせることが得意です」というはずがなく、言葉にすることで逆に面白くなく、嘘っぽく、白々しく感じませんか。
そして何より、「ムードメーカー」「協調性」「リーダーシップ」などをアピールしたつもりでも、それらの手垢のついた表現は人事担当者の心に残りません。前述したように”One of them”に埋没し、ああ、他にアピールすることがないんだなあ、と感じさせてしまうのが関の山です。
筆者の実感では、パーソナリティ(性格的要素)で他の学生と差別化することは極めて難しいと考えます。それよりも「私にはこれができる」というAbility(能力)を具体的な経験やエピソードを交えてわかりやすく示す。その方があなたの才能や価値を際立たせます。
ストーリーは事実の22倍、人の記憶に残る
では「具体的なエピソードや経験をわかりやすく」示すにはどうすればいいのでしょうか。
ここでは筆者が2022年9月、米オハイオ州クリーブランドで開催された「Contents Marketing World」(コンテンツマーケティングワールド) という会議に参加した際に触れた、米スタンフォード大の研究結果を紹介しましょう。
上記資料の左の写真のメッセージは「TO JACKSONVILLE」(ジャクソンビルまで)、右の写真のメッセージは「TO MOM’S FOR CHRISTMAS」(クリスマスに母さんのもとへ)と書かれています。
男性がヒッチハイクをしている写真です。仮に、自分がこの男性の脇を車で通りすぎるドライバーだとします。左は素通りしてしまいそうですが、右はなんだか、車を止めて乗せてあげたくなる感情がこみ上げてきます。それはきっと筆者が、この男性に「ストーリー」を感じるからです。親孝行で、家族思いで、誠実な彼を助手席に乗せて、少し話をしてみたい感情にかられるから不思議です。
Stories are remembered up to 22 times more than facts alone.
ジェニファー・アーカー(米スタンフォード大学・心理学兼マーケティング教授)
ストーリーはファクト(事実)よりも22倍人の記憶に残る。
ESや面接で”One of them”に埋没しないための重要なキーワード。それは「ストーリー」だと筆者は考えます。
就職活動はあなたという商品を企業に売り込む最初のプレゼンテーションです。その時に、あなたという商品の「スペック」だけを羅列するとします。しかもそれは競合商品とほぼ大差のない機能だとして、あなたは顧客(買い手)に魅力的に映るでしょうか。
それよりも、あなたという人物をストーリーで語り、あなたという「商品」を買えば、こんなことをしてくれそうだ、あんなこともできそうだ、あのプロジェクトを任せてみたい…などとイメージさせ、共感させる。そんなESや面接を実現できたら、内定の可能性は広がります。
ストーリーで「自分」を売り込む例
最後に、筆者がこれまで200件以上のOB訪問を受けてきた中で、特に印象に残った2人の学生の話をしましょう。体育会系の学生の事例は直接的すぎるので、今回はあくまでOne of themに埋没しないための、ストーリーで語る「ヒント」として一般的な学生の事例を紹介します。
1990年代後半、私を訪問してきた学生が実際に語ったエピソード。記憶の限り、再現してみます。いずれの学生も超一流企業に内定し、それぞれの道で大活躍しています。
事例①【私大男子・大手広告内定】あのアーティストの「目」になった私
私は大学で専攻している英語の運用能力に磨きをかける一方で、英語の同時通訳の人材バンクに登録しています。プロの通訳者として月間20万円ほどの収入を得ています。得意な英語で社会に貢献したい、人々の役に立ちたい。卒業後はその目標がかなえられる企業に入り、自分自身も会社と一緒に成長したいと切望しています。いまはまさにその助走期間です。
英語同時通訳の人材バンクに登録して驚いたことがあります。登録者は女性が9割以上。男性が1割弱なんです。男子学生でフットワークが軽い自分は予想以上に重宝されて、この1年で30件以上の現場で同時通訳の現場や要人アテンドなどの仕事を重ねてきました。そのなかで私にとってかけがえのない経験ができた現場のエピソードを披露させていただいてもよろしいでしょうか。
先日、米国から歌手のスティービー・ワンダーが日本ツアーで来日しました。彼の希望で通訳は男性がいいということで、この私が専属通訳に抜擢されたのです。
ご存じのように彼は盲目のアーティスト。普段はとてもおおらかな性格ですが、オーディエンスの客層、反応などにはとても神経質でした。スティービーは、私にリハーサル中や開演前、私に事細かに質問してきます。私は彼の通訳ではなく、彼の目になってやろうという心持ちで、全神経を集中して言葉を紡ぎ続けました。(中略)
ライブ最終日のカーテンコール。会場のオーディエンスと大合唱を終え、控室に戻ったスティービーは汗だくで、感極まり、泣いていました。”You are the best!””と言いながら抱擁してくれました。そして、これが先日、スティービーから届いたクリスマスカードです。
(と言いながら、クリスマスカードを見せられる)
TOEIC900点。英検1級。そんなことはESにサラッと記載してあるだけでした。この学生はスティービー・ワンダーの「目」になった経験を生々しく語り、単なる通訳という関係性を超えてスティービーから信頼され、その後も「友人関係」を続けているというエピソードを熱く語りました。
「英語」をアピールする際にも、こうしてストーリーで紡ぐと、相手の印象に鮮烈に刻まれます。
事例②【私大女子:ソニー・ミュージックエンタテインメント内定】幸せを呼ぶランジェリー
私は母子家庭で育ちました。これまで女手一つで育ててくれた母にはとても感謝しています。母は東京・南青山の路面店でランジェリーショップを経営しています。
大学生になって母の仕事を助けたい気持ちが強くなり、自分にも何かできないか考えていた時に、「欧米には赤いランジェリーをつけると幸せになれる」という言い伝えがあることを知りました。日本ではほとんど知られていなかった慣習でしたが、私自身は、それがとても遊び心があり、ロマンチックに思えました。老若男女だれもが簡単にできる願掛け。興味を惹かれ、日本でも受け入れられるのでは?と直感しました。
私は母と相談し、クリスマス前のショーウインドーに赤い下着だけをディスプレイすることを提案しました。同時にファッション雑誌やラジオ番組に「日本上陸?幸せを呼ぶ赤パン(赤いパンツ)伝説」という投稿をして、その慣習をメディアで紹介してもらいました。さらにそのメディアを母の店のショーウインドーに飾り付けました。反響は予想以上。常連さんが普段は手が伸びない赤い下着を買っていく機会が増えたそうです。
1週間後、私は第一志望のソニーミュージックエンターテインメントの面接があります。幸せが訪れるように、原田先輩にぜひともアドバイスをいただきたくて、もちろんきょうも赤いパンツをはいてきました‼(にっこり)
母の仕事を助けたいというやさしさ、感謝の気持ち。スマホもネットも普及していなかった時代に「赤い下着で幸せに」という欧米の慣習を察知した情報収集力。メディアに自ら売り込んだ行動力。下着の色までアピールする度胸とユーモアで、音楽業界の面接官はきっと、彼女に未来のヒットメーカーの姿を想像したのではないでしょうか。
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Pen&Co.株式会社では主に体育会系学生を対象に、キャリア支援事業を展開しています。大学や専門学校、高校などでの講演もいたします。朝日新聞記者と編集者で鳴らした「ことばのプロ」があなたのエントリーシート(ES)を磨き上げ、面接力アップを指南します。下記のフォームよりお気軽にお問い合わせくださいませ。